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2026-05-11経営

漁師は魚群探知機を持っていても、網の破れには気づかない

経営データ分析リピーター集客

漁師は魚群探知機を見ている。

画面に映る魚の群れを追いかけ、最適なポイントに網を入れる。テクノロジーのおかげで、勘と経験だけの漁よりはるかに効率が良い。

でも魚群探知機は「網の破れ」を教えてくれない。

どれだけ正確に魚群を見つけても、網に穴が空いていれば魚は逃げる。漁師が画面を見ている間、網の状態は視界の外にある。

トーナメントの参加者データにも、同じ死角がある。

「月間参加者数は横ばい」の裏側

ある店の月間トーナメント参加者数は、半年間ずっと300人前後で推移していた。

オーナーは「安定している」と判断した。毎月300人が来てくれている。大きな問題はない。

しかし、データをもう一段掘ってみると、景色が変わった。

半年前の300人のうち、月2回以上来ていたリピーターは180人。新規は120人。 直近の300人のうち、リピーターは140人。新規は160人。

合計は同じ300人だ。しかし、リピーターが40人減り、新規が40人増えていた。数字の見た目は「横ばい」でも、中身は「リピーターの流出を新規で補っている」状態だった。

新規の流入がいつまでも続く保証はない。リピーターの流出が止まらなければ、新規が枯れた瞬間に参加者数は崩壊する。

生存バイアス——弾痕が教えない場所

第二次大戦中、連合軍は帰還した爆撃機の弾痕の位置を記録した。弾痕が多い場所に装甲を追加すべきだ——と軍の担当者は考えた。

統計学者のエイブラハム・ウォールドはこれを否定した。「帰還した機体は、その場所に被弾しても帰って来られた。装甲を強化すべきは弾痕がない場所——つまり、そこに被弾した機体は帰って来られなかった場所だ」。

これが「生存バイアス」だ。目の前にあるデータ(帰還した機体)だけを見ていると、見えないデータ(帰還しなかった機体)の情報を見落とす。

トーナメントの参加者データも同じ構造だ。「来ている人」のデータは豊富にある。誰が何回参加したか、どの大会に出たか、いくら使ったか。しかし「来なくなった人」のデータは、来ている人のデータからは見えない。

ダークマター——見えない85%

天文学では、宇宙の質量の約85%は「ダークマター」と呼ばれる見えない物質で構成されていると推定されている。望遠鏡で見えている星や銀河は、全体の15%にすぎない。

見えているデータが全体の一部にすぎないという構造は、トーナメント運営のデータにも当てはまる。

「先月の参加者数」は分かる。「先月の平均参加回数」も分かる。しかし「先月来なくなった10人がなぜ来なくなったか」は、POSデータにもExcelにも記録されていない。

来なくなった理由は多様だ。仕事が忙しくなった、別の店に行った、対応が気に入らなかった、引っ越した、ポーカー自体に飽きた——。理由ごとに打てる手は全く違う。「対応が気に入らなかった」なら改善できるが、「引っ越した」なら何もできない。

しかし「来なくなった」という事実だけが残り、理由は闇の中だ。

「見えないデータ」を見る方法

見えないデータを見るには、データの外に出る必要がある。

「来なくなった人リスト」を作る

月次で「前月は来ていたが今月は来なかった人」のリストを作る。このリスト自体は参加者データから機械的に生成できる。

リストができたら、そのうち何人かに連絡を取る。LINEでもSNSのDMでも構わない。「最近来られていないようですが、何かありましたか?」と聞く。

全員が答えてくれるわけではないが、5人に聞いて3人から返事があれば、パターンが見えてくる。

「初回だけで来なくなった人」を特に追う

最もデータの死角が大きいのは「1回来て、2回目が来なかった人」だ。この人たちの離脱理由は、店の改善に直結する。

初来店の体験設計については方言が通じない町に引っ越した日のことを、覚えているかで書いた。初参加者が「2回目に来ない」構造的な理由がある。

「満足度」ではなく「不満足の構造」を聞く

「楽しかったですか?」と聞くと、大半の人は「楽しかった」と答える。社交辞令だ。

代わりに「もし1つだけ変えられるとしたら、何を変えますか?」と聞く。この質問は「不満足の構造」を引き出す。「特にない」と言われたらそれでいい。「テーブルブレイクのタイミングがわからなかった」と言われたら、それは改善可能な構造の問題だ。

データの「使い方」を変える

データは「いる人」を分析するツールとしては強力だ。参加頻度、時間帯、参加する大会の傾向——これらはマーケティングにもスケジュール設計にも使える。

しかしデータだけでは「いなくなった人」は見えない。

データが教えてくれるのは「何が起きたか」だ。「なぜ起きたか」と「何が起きなかったか」は、データの外にある。

リーダーボードの設計で書いたように、データの活用には「何を測るか」の設計が先にある。リピーター率、離脱率、初回→2回目の転換率——何を測るかを決めてからデータを見ないと、「参加者数は横ばいだから大丈夫」で止まる。

まとめ

魚群探知機は魚の居場所を教えてくれるが、網の破れは教えてくれない。

  • 「月間参加者数は横ばい」でも、リピーターの流出を新規で補っている場合がある
  • 来ている人のデータからは、来なくなった人の理由は見えない
  • 生存バイアス:見えているデータだけで判断すると、見えないデータの情報を見落とす
  • 「来なくなった人リスト」を作り、理由を直接聞くことがデータの死角を埋める第一歩

データで見えるのは「いる人」だけだ。「いなくなった人」の分析には、データの外に出る必要がある。


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