2026-06-16 ・ 経営
テーブル稼働率を上げすぎると、売上が下がる
図書館の本を全部読む人は、たぶん誰もいない。
ある調査では、図書館の蔵書の3〜4割は1年間で1度も貸し出されない。もっと絞れば「10年貸し出しゼロ」の本もある。経営効率の観点から見ると「ロス」に見える。
でも図書館が利用率の低い本を全部撤去したら、来る人が減る。
「いざとなれば借りられる」という安心感が、図書館の価値を作っている。使われていない本が、図書館を図書館たらしめている。
テーブル稼働率にも、同じ逆説がある。
稼働率を100%にした店で起きたこと
あるアミューズメントカジノが、売上を伸ばすためにテーブル数を5台から4台に減らした。1台あたりの稼働率は上がった。
しかし数ヶ月後、金曜と土曜の夜に「満席で入れない」という問い合わせが増えた。その客は他の店に行った。翌週また来るかどうかはわからない。
月次売上を見ると、テーブルを減らした後の方が下がっていた。稼働率は上がったのに。
「稼働率を上げる = 効率が良い」は、半分しか正しくない。
「余白」が生む3つの価値
テーブルに空きがあることには、具体的な価値がある。
飛び込み客を受けられる
「今日、たまたま近くにいたから寄った」という客を、満席で断った瞬間に機会損失が生まれる。その客が「次は予約して来よう」と思うかどうかは、残念ながらわからない。
飛び込み需要は読めない。読めないから、受けられる状態を維持することに価値がある。
トーナメント間の準備時間が取れる
1つのトーナメントが終わったとき、テーブルをリセットして次の参加者を受け付ける時間が必要だ。テーブルが常に使用中だと、その猶予がなくなる。
進行が詰まると、スタッフのオペレーションが荒れる。荒れると、プレイヤーへの対応品質が下がる。品質が下がると、印象が悪くなる。稼働率を上げようとした結果が、体験の劣化につながる。
「いつでも入れる店」のブランドが生まれる
常連が「あそこはいつでも座れる」という経験を積み重ねると、「行こうと思ったときに行ける店」として認識される。これは予約管理のコストを下げる効果もある。
最適稼働率は100%ではなく「X%」だ
どの産業でも、最適稼働率は100%ではない。
ホテルは80〜85%を目標にすることが多い。残りの15〜20%は、繁忙期のフレキシビリティと緊急対応のためのバッファだ。100%に近づくと、一人のキャンセルが全体の調整を狂わす。
電力も同様で、系統全体の予備力として常に10〜15%の余裕を持たせる。100%使うと、一箇所で障害が起きたとき全体に波及する。
テーブルの最適稼働率は店の規模・立地・客層によって違うが、「空きゼロ」が最適な状態である店はほぼない。
アミューズメントカジノの収益モデルで触れた通り、稼働率だけで収益を語ると、見えなくなるコストがある。空きを作るコストだけでなく、空きをなくすことで失う機会も計算に入れる必要がある。
「稼働率を上げろ」という指示の危うさ
スタッフに「稼働率を上げるように」と指示すると、何が起きるか。
シンプルに、空きを作らないように詰め込む判断が増える。テーブル間の移動を急かす。参加者の待ち時間を圧縮しようとする。
これらは「稼働率」という指標に最適化した行動だ。でも「客の体験」という指標では逆に動いている可能性がある。
測る指標によって、最適な行動が変わる。
稼働率を追いかけながら、「同じプレイヤーが翌月も来ているか」という指標も追う。この2つが同時に良い方向を向いているかを確認する習慣が、設計の精度を上げる。
まとめ
図書館の「使われない本」は無駄ではなく、図書館の価値の一部だ。
テーブルの「空き」も同様に、飛び込み需要の受け皿であり、オペレーションの余裕であり、「いつでも入れる」という体験の源泉だ。
稼働率を上げることと、売上を上げることは、同じ方向を向いているとは限らない。
「余白」が価値を作っているとしたら、その余白をどれだけ残すかは経営判断だ。
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